西の漁師町に、古くから語り継がれる話がある。海で遭難し、無人島に流れ着いた者のうち、生きて帰れるのはいつも決まって「信号弾を持たず、己の刃物一本で島を生き延びた者」だという。
逆に、助けを呼ぶ道具ばかりを頼りにした者は、なぜか二度と帰ってこない。写真や思い出の品を後生大事に抱えて過ごした者、あるいは連絡が取れることを信じて何もせず待ち続けた者――そうした人々の名は、いつしか土地の記録からも消えていったという。
「あれは島の"何か"が、頼る者から先に選ぶからだ」
―― 土地の古老の言葉として伝わる一節
―― 土地の古老の言葉として伝わる一節
この話が実際の海難事故に基づくものなのか、単なる戒めの創作なのかは定かではない。ただ、似た構造の言い伝えは、離島や漁村を中心に複数の地域で確認されている。「頼る者は消え、頼らぬ者は残る」――なぜかいつも、この一点だけは共通しているのが興味深い。